細胞培養に必要な基材の種類。選定時に求められる特性とは

細胞培養に必要な基材の種類。選定時に求められる特性とは

細胞培養において使用する基材は単なる「土台」ではなく、実験の成否を大きく左右する重要な要素です。基材ごとの特性を理解し、目的に応じた適切なものを選定することで、より安定した培養環境を整えることができます。

この記事では、細胞培養に不可欠な「基材」について、その種類や役割、選定時に重視したほうがよい特性を解説します。

細胞培養の足場材についてはこちらの記事をご確認ください。

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目次[非表示]

  1. 1.細胞培養における基材の役割
  2. 2.細胞培養で使用される主な基材
  3. 3.細胞培養の基材に求められる特性
    1. 3.1.接着性・伸展性がある
    2. 3.2.接着性・伸展性を補うにはコーティングが有効
    3. 3.3.細胞の培養を妨げない
      1. 3.3.1.細胞毒性がない
      2. 3.3.2.培養条件下で変質しない
      3. 3.3.3.滅菌ができる
    4. 3.4.顕微鏡で観察しやすい
  4. 4.効率的な細胞培養を実現するマイクロプレート
  5. 5.まとめ

細胞培養における基材の役割

細胞培養において基材は、細胞が生体外で生きて増殖・分化するための「足場」として重要な役割を果たします。

また、基材は細胞が接着しやすい表面を提供し、細胞の形態や機能を維持するために不可欠です。

ただし、基材の種類や表面特性によって、細胞の増殖速度や分化傾向が大きく変わることもあります。特に再生医療や創薬研究では目的に応じて最適な基材を選ぶことが、実験の成功やデータの再現性向上に直結します。基材は単なる容器ではなく、細胞の生理機能を支える重要な要素です。

細胞培養で使用される主な基材

細胞培養で使用される基材には、さまざまな種類があります。

代表的なものとしては、シャーレやフラスコ、マイクロプレートなどのプラスチック製容器が挙げられ、培養バッグや中空糸膜、ビーズなど、特殊な用途に対応した基材も存在します。

どの基材を使うかは、細胞の特性や培養の目的、スケールによって決まります。近年では、3D培養に対応したハイドロゲルやナノファイバーなど、より生体内環境に近い条件を再現できる基材も開発されています。

基材の選択は、細胞の生育や実験結果に大きな影響を与えるため、慎重な検討が求められます。

▼代表的な基材の特徴

基材の種類

特徴・用途

シャーレ

観察や少量培養に適し、主に二次元培養で使用される

フラスコ

大量培養や継代に便利。表面積が広く、細胞増殖に適している

マイクロプレート

多検体同時処理やスクリーニングに最適。ウェル数や形状が多様

培養バッグ

大規模培養や無菌操作が必要な場合に使用。ガス交換性が高い

中空糸膜

大量培養や細胞回収に有効。細胞外液の交換が容易

ビーズ

三次元培養や細胞の回収・分離に利用される

細胞培養の基材に求められる特性

細胞培養の基材を選定する際には、いくつかの重要な特性が求められます。

まず、細胞がしっかりと接着・伸展できることが必要です。加えて、基材自体が細胞の増殖や分化を妨げないこと、すなわち細胞毒性がなく、培養条件下で変質しないことも欠かせません。

さらに、滅菌が容易であることや顕微鏡観察がしやすい透明性や平滑性も求められます。これらの特性を満たすことで、安定した細胞培養環境を確保できます。

接着性・伸展性がある

細胞が基材上で正常に増殖・分化するためには、基材表面に十分な接着性と伸展性が求められます。

特に接着依存性の高い細胞種では、基材の表面が細胞の足場となり、細胞がしっかりと広がることで、細胞間の情報伝達や機能発現が促進されます。

基材の材質や表面処理によって、細胞の接着効率や形態が大きく変化するため、目的の細胞に適した基材を選ぶことが重要です。

また、接着性・伸展性の高い基材は、細胞の健康状態や実験の再現性にも大きく寄与します。

細胞培養におけるコーティングについてはこちらの記事をご確認ください。

接着性・伸展性を補うにはコーティングが有効

基材の接着性や伸展性が不十分な場合、コラーゲンやラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス成分で表面をコーティングする方法が有効です。

これにより、細胞が基材にしっかりと接着し、より生体内に近い環境で増殖・分化しやすくなります。コーティング材の選択は、培養する細胞の種類や目的に応じて最適化することが重要です。

▼コーティングの種類と特徴

種類

特徴

コラーゲンコーティング

汎用性が高く、多くの細胞種の接着・分化に有効

ラミニンコーティング

神経・筋・上皮系細胞の接着・極性・機能発現に有効

フィブロネクチンコーティング

細胞移動・血管内皮・幹細胞研究で重要

細胞の培養を妨げない

基材は細胞の増殖や分化を妨げないことが大前提です。基材自体が細胞に悪影響を与えないよう、材料の選定や製造工程での管理を徹底することが大切です。

必要事項として、細胞毒性がないこと、培養条件下で物理的・化学的に安定していることが挙げられます。また、基材から不純物や有害物質が溶出しないことも重要です。

これらの条件を満たすことで、細胞の健全な増殖と実験の信頼性が確保されます。

細胞毒性がない

基材に使用される材料は、細胞毒性がないことが必須条件です。細胞毒性があると、細胞の生存率が低下したり、異常な形態変化が生じたりするため、実験結果に大きな影響を及ぼします。

市販の細胞培養基材は、厳格な品質管理のもとで製造されており、細胞毒性試験をクリアしたものが提供されています。

培養条件下で変質しない

細胞培養は長期間にわたることが多いため、耐薬品性や耐熱性に優れた素材を選択します。基材が培養条件下(温度、湿度、培地成分など)で変質しないことが重要です。

変質や劣化が起こると、細胞の増殖や分化に悪影響を及ぼすだけでなく、実験の再現性も損なわれます。

滅菌ができる

細胞培養では無菌操作が必須であり、基材も滅菌処理が可能でなければなりません。滅菌処理後も基材の性質が変わらないことが求められます。

オートクレーブやガンマ線、エチレンオキサイドガスなど、さまざまな滅菌方法に対応した基材が用意されているため、用途によって選定が必要です。

顕微鏡で観察しやすい

細胞培養の多くは、顕微鏡を用いた観察や評価が不可欠です。そのため、基材には高い透明性や平滑性が求められます。

特にマイクロプレートやシャーレなどは、底面が光学的にクリアであることが重要です。観察しやすい基材を選ぶことで、細胞の状態や変化を正確に把握でき、実験の質の向上が期待できます。

効率的な細胞培養を実現するマイクロプレート

マイクロプレートは、多検体同時処理やハイスループットスクリーニングに最適な基材です。96ウェルや384ウェルなど、さまざまなウェル数があり、少量の試薬で多くの実験を効率的に行うことができます。

近年では、3D培養や共培養に対応した特殊なマイクロプレートも登場しており、細胞の生体内環境をより忠実に再現できるようになっています。

マイクロプレートの選択肢が広がることで、研究の幅や効率が大きく向上しています。

▼マイクロプレートの種類と特徴

マイクロプレートの種類

特徴

標準プレート

二次元培養や一般的なアッセイに使用

スフェロイドプレート

三次元培養や腫瘍モデル作成に最適

コーティングプレート

特定の細胞種に合わせた表面処理済み

日本ゼオンでは、高い接着性を持つ足場材がコーティング済みで、開封後すぐに使用できるReady-to-use のプレコートプレート「CELLAZIP™ 細胞培養用オリジナルコートプレート」を提供しています。

クリーニング試験や細胞観察、がん・神経・細胞治療研究など、幅広い分野で活用できる培養器材として高い透明性と生体適合性を持つシクロオレフィンポリマー素材に、アニマルフリー原料由来のコート剤を採用しているため、動物由来成分を避けたい研究環境にも最適です。

アニマルフリーな培養環境を実現しつつ、薬物スクリーニングやハイコンテントスクリーニング、さらに高度な細胞観察まで、再現性の高い実験をサポートする器材としてご活用いただけます。

マイクロプレートに関してはこちらの記事をご確認ください。

まとめ

細胞培養のために必要な基材について以下の内容を解説しました。

  • 細胞培養における基材の役割

  • 細胞培養で使用される主な基材

  • 細胞培養の基材に求められる特性

細胞培養における基材は、細胞の生育や実験の成功に直結する重要な要素です。

基材の種類や特性を理解し、目的や細胞種に合わせて最適なものを選ぶことが、効率的かつ再現性の高い細胞培養につながります。

最新の基材やコーティング技術も活用し、よりよい研究環境を整えることが大切です。

日本ゼオンでは、シクロオレフィンポリマーを使用した高精度なイメージングに適したマイクロプレート『Aurora Microplates™』や細胞培養用オリジナルコートプレートを提供しています。

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