細胞培養におけるコーティングの種類と選定時のチェックポイント
細胞の接着や増殖を安定させるためには、適切なコーティングの選定が欠かせません。コーティングの種類や方法を誤ると、実験結果に大きな影響を与える可能性があります。
この記事では、コーティングの目的や種類、選定時のポイント、実験の最適化について解説します。
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細胞培養においてプレートにコーティングする目的
細胞培養においてプレートやディッシュの表面にコーティングを施す主な目的は以下の4つです。
細胞の接着性向上
細胞の増殖・分化促進
生理的環境の再現
実験の再現性向上
大きな目的として、細胞の接着性や増殖性を高め、より生理的な環境を再現することにあります。ただし、多くの細胞は、プラスチックやガラスなどの無処理の表面では十分に接着できず、形態や機能が損なわれるおそれがあります。
そのため、コーティングを行うことで、細胞外基質(ECM)に近い環境を人工的に作り出し、細胞の生存率や分化能、機能発現を向上させることが可能となります。
特定の細胞種や実験目的に応じて最適なコーティングを選ぶことで、再現性の高い実験結果が得られる点も重要です。
細胞培養で用いられるコーティングの種類
細胞培養で用いられるコーティングは、大きく分けて生物学的コーティングと化学的コーティングの2種類があります。
生物学的コーティングは、細胞外基質タンパク質など天然由来の成分を用いたもので、細胞の生理的な挙動を再現しやすい特徴があります。
一方、化学的コーティングは合成高分子や化学修飾物質を用い、コストや安定性、再現性に優れる場合が多く見られます。
それぞれの特徴を理解し、細胞種や実験目的に合わせて適切なコーティングを選択することが重要です。
▼コーティングの種類と特徴
コーティングの種類 | 主な特徴 |
生物学的コーティング | 天然由来、細胞外基質に近い、細胞の生理的挙動を再現しやすい |
化学的コーティング | 合成高分子、コストや安定性に優れる、再現性が高い |
生物学的コーティング
生物学的コーティングは、主にコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ゼラチンなどの細胞外基質(ECM)タンパク質を用いて行われます。
これらのタンパク質は、細胞の接着や増殖、分化に関与する重要な役割を持ち、特定の細胞種に対して最適な環境を提供します。
例えば、コラーゲンは多くの細胞種で汎用的に利用され、ラミニンは神経細胞や幹細胞の培養に適しています。このような特徴から生物学的コーティングは、細胞の生理的な挙動を重視する実験や、再生医療、創薬研究などで広く用いられています。
▼生物学的コーティング剤の種類と特徴
コーティング剤 | 主な用途・特徴 |
コラーゲン | 汎用性が高く、幅広い細胞種に対応 |
ラミニン | 神経細胞や幹細胞の培養に最適 |
フィブロネクチン | 細胞の接着や移動を促進 |
ゼラチン | 安価で使いやすい、主に初代細胞や一部の細胞株に利用 |
化学的コーティング
化学的コーティングは、主にポリリジンやポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-オルニチンなどの合成高分子を用いて行われます。
これらの化学的コーティングは、細胞の接着性を高めるだけでなく、コストや安定性、再現性に優れる点が特徴です。特に神経細胞や一部の難接着性細胞の培養においては、ポリリジンやPEIがよく利用されます。
また、化学的コーティングはロット間差が少なく、長期保存や大量調製にも適しているため、標準化された実験系に向いています。
▼化学的コーティング剤の種類と特徴
コーティング剤 | 主な用途・特徴 |
ポリリジン | 神経細胞や難接着性細胞の接着促進 |
PEI | トランスフェクションやウイルス感染実験に適する |
ポリ-L-オルニチン | 神経細胞の接着性向上 |
プレートのコーティングを選定する際のチェックポイント
プレートのコーティングを選定する際には、いくつかの重要なチェックポイントがあります。
まず、培養する細胞の種類や目的に応じて、最適なコーティング剤を選ぶことが大切です。例えば、神経細胞や幹細胞にはラミニンやポリリジン、上皮細胞にはコラーゲンやフィブロネクチンが適しています。
また、コストや入手のしやすさ、ロット間差、再現性、保存性、培養期間の長さ、アニマルフリー環境の必要性なども考慮が必要です。さらに、実験のスケールや下流工程(イメージング、遺伝子導入など)との相性も確認することが重要です。
これらのポイントを総合的に判断し、最適なコーティングを選定することで、実験の成功率や再現性を高めることができます。以下に項目と注意点をまとめます。
▼コーティングの選定ポイント
チェックポイント | 具体例・注意点 |
細胞種・目的 | 神経細胞:ラミニン、ポリリジン/上皮細胞:コラーゲン、フィブロネクチン 細胞種によって最適なコーティングが異なるため、目的実験に応じて選択する |
コスト・入手性 | ゼラチンや化学的コーティングは安価で入手しやすい |
培養期間の長さ | 短期培養 → ゼラチンやポリリジン |
アニマルフリー環境の必要性 | 再生医療・GMP準拠の研究において、アニマルフリー由来のコート剤を選択 |
再現性・ロット差 | 化学的コーティングはロット差が少ない |
保存性 | 合成高分子は長期保存が可能 |
下流工程との相性 | イメージングや遺伝子導入に適したコーティングを選ぶ |
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まとめ
細胞培養におけるコーディングついて以下の内容を解説しました。
細胞培養におけるコーディングの目的
細胞培養におけるコーディングの種類
プレートのコーティングを選定する際のチェックポイント
細胞培養におけるコーティングは、細胞の接着や増殖、分化を最適化し、実験の再現性を高めるために欠かせない要素です。
生物学的コーティングと化学的コーティングにはそれぞれ特徴があり、細胞種や実験目的に応じて適切なものを選ぶことが重要です。選定時には、コストや再現性、保存性、下流工程との相性も考慮します。
本記事を参考に、最適なコーティングを選び、細胞培養実験の成功につなげてください。
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