細胞培養の接着方法と効率化技術

細胞培養は、ライフサイエンス研究や創薬開発の基盤となる最も重要な実験技術のひとつです。そのなかでも、培養細胞の多くを占める「接着細胞(adherent cells)」は、適切な基質への接着がなければ生存・増殖できないため、培養環境の最適化が成果を大きく左右します。
この記事では、接着細胞の特徴と種類、接着培養の基本原理、代表的な培養基質と管理のポイント、マイクロプレートを活用した効率化について解説します。
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目次[非表示]
- 1.細胞培養の接着について
- 1.1.接着細胞の特徴と種類
- 1.2.接着細胞と浮遊細胞の違い
- 2.接着方法とポイント
- 2.1.培養基質と表面処理の役割
- 2.2.継代と管理
- 3.接着細胞の課題と研究応用
- 3.1.課題と限界
- 3.2.創薬スクリーニングでの利用
- 4.マイクロプレートによる接着培養の効率化
- 5.まとめ
細胞培養の接着について
接着細胞(adherent cells)とは、培養容器の表面に接着して増殖するタイプの細胞を指します。
これらの細胞は、組織内で周囲の細胞や細胞外マトリックス(ECM)と密接に接触して機能を発揮しているため、体外培養においても適切な接着環境を再現することが重要です。
接着細胞の特徴と種類
接着細胞の特徴は、主に「形態依存的な増殖」と「基質応答性の高さ」です。
接着細胞は基質上で扁平化し、細胞骨格を伸展させながら増殖します。この過程で、細胞同士が接触すると接触阻止(contact inhibition)が起こり、それ以上の増殖を停止します。
▼代表的なカテゴリー
線維芽細胞系(fibroblast-like)
長く伸びた形態で、コラーゲン合成や創傷治癒モデルに利用
上皮細胞系(epithelial-like)
タイル状に並び、バリア機能や吸収・分泌研究に用いられる
神経細胞・内皮細胞系
細胞間接着やネットワーク形成が特徴で、再生医療・神経科学分野で応用
接着細胞と浮遊細胞の違い
細胞培養には、接着細胞とは対照的に「浮遊細胞(suspension cells)」も存在します。浮遊細胞は、基質に接着せず培地中を浮遊したまま増殖します。
一方で、接着細胞は、細胞同士や基質との接触を介してシグナル伝達を行うため、より生理的な環境下での挙動解析に適しています。
接着方法とポイント
接着細胞を安定的に培養するためには、基質選定・表面処理・環境制御の3要素が重要です。
初期接着(Initial attachment)
細胞が基質に接触し、膜タンパク質による一時的な結合を形成
伸展・固定化(Spreading)
細胞骨格が再構築され、インテグリンを介して強固な接着を確立
安定期(Stable adhesion)
細胞が基質に沿って広がり、細胞間接着(カドヘリン)や細胞外マトリックス形成が進行
特に重要なのは、培養基質とその表面性状です。親水性が高すぎると接着効率が低下し、逆に疎水性が強いと細胞が丸まってしまうため、細胞種に応じた最適なコーティング材を選択する必要があります。
培養基質と表面処理の役割
「培養基質」とは、細胞が直接触れる培養容器の表面を指します。この基質は単なる支持面ではなく、細胞と外界をつなぐ情報伝達の場として機能します。
▼代表的な基質やコーティング材
種類 | 詳細 |
コラーゲン | 上皮細胞や肝細胞などの接着促進に広く利用 |
フィブロネクチン | 細胞外マトリックスを模倣し、細胞伸展を促進 |
ラミニン | 神経細胞や幹細胞の分化・接着を支援 |
ポリ-L-リジン/ポリエチレンイミン | 表面荷電を正に変え、初期接着を強化 |
継代と管理
接着細胞を長期間維持するためには、定期的な「継代(passaging)」と厳密な管理が不可欠です。継代とは、過密状態になった細胞を新しい培養容器へ分散し、増殖を継続させるプロセスを指します。
▼一般的な継代手順
トリプシン処理:接着を解除するために酵素を添加し、細胞を浮遊化
中和・遠心分離:培地でトリプシンを中和し、細胞を回収
再播種:適正な密度で新しい培養皿へ分散
ほかにも、長期培養では「培地交換頻度」「二酸化炭素濃度」「温度管理」などを一定に保つことが重要です。
接着細胞の課題と研究応用
接着細胞は生理的に安定したモデルですが、その培養や維持にはいくつかの課題があります。
課題と限界
接着培養の限界としては、以下の技術的・運用的制約が挙げられます。
スケールアップの難しさ
接着面積に依存するため、浮遊培養のように大規模生産が難しい
細胞ダメージの蓄積
継代時のトリプシン処理や機械的剥離が細胞膜を損傷し、寿命を縮める
観察・評価の手間
顕微鏡観察や形態解析が必要で、データ処理に時間を要する
均一性の確保
同一培養皿内でも接着状態が不均一になり、解析データにばらつきが生じやすい
特に、創薬スクリーニングや大規模データ解析を行う場合、これらの制約は実験効率のボトルネックになることがあります。自動化とマイクロスケール化による改善が今後の焦点となっています。
創薬スクリーニングでの利用
接着細胞は、薬剤添加後の形態変化、細胞骨格の再編、核の収縮、シグナル分子の局在変化など、薬物応答を多角的に評価できるため、創薬スクリーニングで広く利用されています。
近年では、ハイコンテントスクリーニング(HCS)と呼ばれる技術が進化し、共焦点顕微鏡などを用いて数千の細胞画像を自動解析できるようになっています。高精度なハイコンテントスクリーニングを行うためには、接着細胞を安定的に保持・観察できるマイクロプレート環境が重要です。
マイクロプレートによる接着培養の効率化
従来、手作業で行われてきた接着細胞培養は、マイクロプレートを利用した自動化・多検体処理技術が広く導入されつつあり、薬剤濃度依存性試験やスクリーニング実験を高効率で実施できるようになりました。
マイクロプレート培養の利点として「均一な細胞接着」「再現性の高いデータ取得」「画像解析の自動化」が挙げられています。さらに、光学的に透明な底面プレートを用いることで、蛍光顕微鏡・共焦点顕微鏡観察にも対応可能です。
日本ゼオンが提供する『Aurora Microplates™』は蛍光顕微鏡・共焦点顕微鏡観察に適したマイクロプレートです。
高い光透過性と低蛍光背景
共焦点・蛍光観察に適した透明度により、微細な構造観察や定量解析の精度を向上
高い化学耐性
培地成分や薬剤による劣化を防ぎ、化学的に安定な素材により、長時間のアッセイにも対応
均一な表面特性
ウェル間の接着効率のばらつきを抑制し、大規模スクリーニングの再現性を確保
自動化対応設計
高精度成形と規格化設計により、自動化システムやハイスループット解析環境にも適応
さらに、『Aurora Microplates™』の素材はゼオン独自の高分子技術により、光学性能と耐久性を両立しており、研究現場で求められる“高感度かつ安定した観察環境”を提供しています。
まとめ
この記事では、接着細胞培養について以下の内容を解説しました。
細胞培養の接着の概要
接着方法とポイント
接着細胞の課題と研究応用
マイクロプレートによる接着培養の効率化
接着細胞培養は、細胞生物学・創薬・再生医療などの分野で不可欠な技術であり、その成功は「接着の制御」にかかっています。
日本ゼオンの『Aurora Microplates™』は、高い光学透明性・化学耐性・自動化適合性を兼ね備え、接着培養を効率化するとともに、観察・解析の精度を向上させます。
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