ハイコンテントスクリーニング(HCS)とは。一般的な原理や測定プロセスを解説

創薬やライフサイエンス研究の現場では、より効率的かつ高精度に細胞の応答や薬物作用を評価する手法が求められています。そのなかでも注目を集めているのがハイコンテントスクリーニング(High Content Screening:HCS)です。
この記事では、HCSの定義から原理、測定プロセス、応用事例、マイクロプレートによる効率化手法について解説します。
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ハイコンテントスクリーニングとは
ハイコンテントスクリーニング(HCS)とは、細胞や組織を対象に、多数の生物学的指標を同時に測定・解析するスクリーニング手法を指します。
HCSは蛍光色素や蛍光タンパク質を用いて細胞内の特定構造(核、ミトコンドリア、細胞骨格など)を可視化し、その画像を解析ソフトウェアで数値化します。これにより、薬物の作用機序や副作用予測をより高精度に行うことが可能になります。
また、現代のHCSでは、人工知能(AI)を活用した画像認識技術が進化しており、数百万枚に及ぶ細胞画像を自動分類・解析することも可能です。
一般的な原理と測定プロセス
HCSの基本的な原理は、蛍光顕微鏡画像の取得とその画像解析による多項目データの抽出です。
分子レベルの挙動を“画像情報”として可視化し、さらにその画像を数値化して解析することで、細胞の形態・機能・応答を総合的に評価します。HCSは一般的に以下のステップで構成されています。
1.サンプル調製
細胞をマイクロプレート(通常は96ウェルや384ウェル)に播種し、一定期間培養します。その後、薬剤や化合物を添加して、細胞反応を誘導します。
2.画像取得
高感度カメラと自動化顕微鏡システムを用いて、多波長の蛍光チャネルを切り替えながら、核やミトコンドリアなど複数の細胞構造を同時に撮影します。
3.画像解析
取得した画像は、専用のHCS解析ソフトウェアで自動処理されます。細胞領域の認識、蛍光強度の定量、形態パラメータの抽出などを行い、数値化されたデータを統計的に解析します。
4.データ統合と評価
得られた多次元データは、主成分分析(PCA)やクラスタリングなどの統計的手法、あるいはAIや機械学習アルゴリズムを用いて統合的に解析されます。
また、HCSにおける光学技術の進化も注目されており、薬物の時間依存的な作用や可逆的変化まで追跡可能になっています。
HCSを支える技術要素
HCSを成立させるためには、光学・撮像・画像解析・データ処理といった複数の最先端技術が組み合わされています。
光学系とイメージング技術
HCSの心臓部は高感度の蛍光顕微鏡システムであり、蛍光励起光の安定性と撮像解像度が解析精度を左右します。
画像解析・AIアルゴリズム
HCSでは数百万枚規模の画像データが生成されるため、AIを用いた自動画像解析技術が不可欠です。ディープラーニングを活用して、細胞形態の自動分類や異常検出を行うことも可能です。
自動化とロボティクス
近年、マイクロプレートの搬送や薬液分注、画像撮影までを完全自動化するロボティックワークフローが先進施設において実現しています。これにより、ヒューマンエラーを最小限に抑えつつ、大量サンプルを短時間で処理できます。
製薬・ライフサイエンス研究における応用
HCSは、創薬やライフサイエンス分野において「定性的観察」から「定量的データ解析」へと研究手法を変革した技術といえます。
特に製薬企業やバイオベンチャーでは、HCSを活用することで薬剤候補の作用機序を深く理解し、開発の初期段階で失敗リスクを低減する取り組みが進んでいます。主に、以下の創薬プロセスにおいて大きな役割を果たしています。
ヒット化合物のスクリーニング
膨大な化合物ライブラリーから、有効な生理活性を示す候補を選び出す段階です。HCSでは、単一の指標に頼ることなく、細胞形態やオルガネラ構造の変化を多次元的に解析できるため、偽陽性や偽陰性のリスクを減らすことが可能です。
リード最適化段階での構造–活性相関解析(SAR解析)
薬物の構造と生物活性の関係を定量化し、最適な候補化合物を選抜する段階では、HCSによって分子の局在変化や経時的な細胞応答をモニタリングできます。
安全性および毒性評価
肝細胞や心筋細胞を用いたin vitro毒性試験において、細胞死や酸化ストレス、ミトコンドリア障害などを可視化・定量化できるため、ヒトへの安全性を予測する前臨床データとして活用されています。
さらに、ライフサイエンス領域では、HCSは再生医療やがん研究などにも応用が広がっています。
マイクロプレートによるHCSの効率化
HCSでは一般的に96ウェル、384ウェル、さらには1536ウェルといったマイクロプレートが用いられます。各ウェルに細胞を播種し、薬剤や化合物を添加して蛍光観察を行うため、プレートの光学特性や表面処理の均一性がデータ品質を左右します。
日本ゼオンの『Aurora Microplates™』は、HCSの効率化に適したマイクロプレートであり、以下の特性を備えています。
高い光学透明性と均一性
独自の高分子素材技術により、蛍光・吸光・発光測定の広い波長範囲で高い透過性と低バックグラウンド特性を実現しています。高いS/N比(信号対雑音比)の向上と、優れた平坦性によるZ方向の焦点調整やスライス数の削減も可能です。
耐薬品性・低バックグラウンド
薬剤や培地に含まれる化学物質による劣化や蛍光干渉を最小限に抑える設計を施しています。
自動化環境への適合性
高い平坦性と構造精度により、各種イメージング装置や自動化システムにも適応しやすい設計となっています。これにより、高スループットな解析や連続測定などのワークフローにおいても、安定したデータ取得を支援します。
このように、マイクロプレートの品質とHCS装置の性能は切り離せない関係にあります。『Aurora Microplates™』はその両面を支える「HCS研究の基盤素材」として、創薬・細胞解析の現場に新たな効率性をもたらしています。
まとめ
この記事では、ハイコンテントスクリーニング(HCS)について以下の内容を解説しました。
ハイコンテントスクリーニングの概要
一般的な原理と測定プロセス
HCSを支える技術要素
製薬・ライフサイエンス研究における応用
マイクロプレートによるHCSの効率化
HCSは、細胞レベルでの多項目解析を可能にする次世代スクリーニング技術として、創薬・毒性評価・再生医療などの分野で急速に普及しています。そのなかで、実験効率とデータ品質の両立を実現するためには、信頼性の高いマイクロプレートが欠かせません。
日本ゼオンが提供する『Aurora Microplates™』は、高透明度・耐薬品性・自動化対応といった特性により、HCSの実験環境を最適化し、より高精度な画像解析をサポートしています。
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